今回の記事では「窒素」について取り上げます。
窒素は空気中にも含まれている身近な元素ですが、水中に過剰に存在すると水の汚れにつながる一面もあります。
そのため、水中の窒素を除去する技術がとても重要です。
そんな「窒素」を水中から除去して綺麗にする、様々な技術について紹介します。
窒素は藻や植物プランクトンの大量発生の原因

人間を含む動物や魚、鳥などの排泄物には、タンパク質やアミノ酸といった有機態窒素が含まれています。
農業で使われる肥料にも、尿素などの窒素を含む物質が使用されています。
食品工場などの排水に多く溶けている有機物にも、有機態窒素が含まれています。
これらの有機態窒素が微生物により分解されると、アンモニア態窒素(NH4+-N)や亜硝酸態窒素(NO2–-N)、硝酸態窒素(NO3–-N)に変化します。
このアンモニア態窒素や硝酸態窒素が川や池、湖、海などに過剰に流出すると、それを餌にして藻や植物プランクトンが大量発生してしまいます。
たまに公園などにある手入れが不十分な池で、緑色のドロドロとした藻が大量に浮いていることがあると思いますが、まさにそれが該当します。こうなってしまうと、
- 景観の悪化
- 悪臭の発生
- 生態系のバランスが崩れる
- 魚介類の生育への悪影響
といった様々な問題が起こります。
そのため、環境中に過剰な窒素が流出しないよう、除去する技術が非常に重要なのです!
窒素を除去する技術
窒素を除去する技術には主に下記の5種類があります。
- アンモニアストリッピング法
- 不連続点塩素処理法
- 生物学的処理法
- イオン交換法
- 生態工学法
以下、この5つの技術についてそれぞれ解説していきます。
アンモニアストリッピング法

アンモニウムイオン(NH4+)を含む排水に水酸化ナトリウムなどのアルカリを加えてpHを11以上にすると、アンモニウムイオンがアンモニア(NH3)に変化します。
この排水に大量の空気を接触させるとアンモニアが空気中に放出され、アンモニアを水から除去することができます。
放出されたアンモニアは触媒で窒素ガスに分解された後、大気中に排出されます。
一連の反応は非常に背の高い塔のような装置の中で行われます。
不連続点塩素処理法
主に水道のアンモニア除去に用いられる方法です。
アンモニア態窒素(NH4+-N)を含む排水に塩素を注入すると、クロラミン(NH2Cl)を経由して窒素ガスに変換され、水から窒素を除去することができます。
生物学的処理法

主に下水のアンモニアや硝酸の除去に用いられる方法です。
別の記事で紹介した「活性汚泥」などに含まれる微生物の働きで、
- アンモニア態窒素(NH4+-N)→亜硝酸態窒素(NO2–-N)に変換【硝化反応、アンモニア酸化細菌の働き】
- 亜硝酸態窒素(NO2–-N)→硝酸態窒素(NO3–-N)に変換【硝化反応、亜硝酸酸化細菌の働き】
- 硝酸態窒素(NO3–-N)→窒素ガス(N2)に変換【脱窒反応、脱窒菌の働き】
の反応が進み、排水中のアンモニア態窒素や亜硝酸態窒素は窒素ガスに変換されて水中から除去されます。
この技術は、水族館の水処理や家庭における熱帯魚の飼育などにも利用されています。
イオン交換法

陰イオン交換樹脂で水中の硝酸イオン(NO3–)を吸着除去したり、ゼオライトと呼ばれる粘土鉱物を用いてアンモニウムイオン(NH4+)や硝酸イオン(NO3–)を吸着除去する方法です。
ちょうど上の写真がゼオライトになります。
ゼオライトは私も実験で使用したことがありますが、小粒の石のような感じです。
生態工学法

植物は根から水中の窒素を吸収して成長するため、この働きを利用した方法です。
水生植物を植えた浮島を作って池や湖に浮かべることで、植物が水中の窒素を吸収し、窒素を除去することができます。
ただし、窒素を吸って成長した植物を刈り取って処分する必要があります。
私は汚れた水の窒素を水生植物に吸収させる実験を行ったことがありますが、実際に窒素をけっこう除去してくれました。
まとめ
今回の記事では、水中の窒素を除去する様々な技術について紹介しました。
今回紹介した多くの化学的・生物学的な技術によって藻や植物プランクトンの発生が抑制され、川や池、湖、海の環境が保たれているのです。
なかなか日常的に日の目を見ることは少ない技術ですが、色々な化学・微生物・植物反応が関わっていて面白いので、興味を持ってもらえると嬉しいです!
参考文献
内藤環境管理株式会社 (2004) ザ・ナイツレポート No.02004 排水の窒素・りん処理方法.
和田洋六 (2012) 図解入門 よくわかる 最新 水処理技術の基本と仕組み. 秀和システム.